
『はくさいぼうやと ねずみくん』
堀米薫 ぶん こがしわかおる え (新日本出版社) 1500円+税
ひとりぼっちだったねずみくんが、はくさいぼうやと出会う。
ともだちになったふたりは、毎日会って話した。
はくさいぼうやが語る“はじめて”は、ねずみくんの世界の見方を変えていく。
けれども、ずっとそのままではいられなくて……。
コロナ禍で孤独を感じがちな中、この物語に涙せずにいられませんでした。
限りある命、その中で出会えた縁、別れと心に残るもの……。
人生がぎゅっと詰まった絵童話です。

『キャンドル』
村上雅郁 (フレーベル館) 1400円+税
現在と過去の人の関係が交差する。
母を亡くしたぼくと父さんの関係。
女装でないと自分らしく生きられない親友とぼくの関係。
記憶を手放した少女と、記憶を引き継ぐことになったぼくの関係。
その少女と、忘れたい人との関係。
世間の目はいつだって、“ふつう”という呪いをかけてきます。
でも、自分の心も大事な人との関係も、世間の基準に合わせればうまく収まるわけではありません。
こわれたものを取り戻そうともがく人々の中にある小さな灯に、力強さを感じました。

『でんしゃとしょかん』
深山さくら・文 はせがわ かこ・絵(文研出版) 1430円
このおはなしは、「くめがわ電車図書館」がもとになっているとのこと。
廃車になった電車を改造して図書館にしたのですが、それには多くの人々の手がかかっています。
人々の思いを乗せて、第二の人生を歩み続けている電車図書館。
読む世代によって人に思いを寄せたり、電車に思いを寄せたりすることでしょう。
春のような、あたたかい気持ちを運んでくれる一冊です。

『犬たちよ、今、助けに行くからね』
沢田俊子 (講談社) 1300円+税 2021年2月8日初版
「犬の保護活動とは、飼い主がいなかったり、いてもぎゃくたいされていたり、放置されていたり、殺処分されそうになっていたりする犬を救い出すことです」
著者の沢田さんは、奈良県で犬の保護活動をしている金本聡子さんを取材されました。
紹介されるいくつものエピソードは過酷なもので、犬の気持ちを思うと、胸が痛くなります。
でも、それは世の中で起きている一部なのでしょう。
人を信頼する犬たちにとって、人にひどくあたられた経験はトラウマになります。
人に怯えるようになった犬たちの信頼を取り戻して、人に懐くようにしなければ、引き取り手は見つかりません。
保護から引き取り手を見つけるまで、金本さんがどれほど体と心を使っているか。
このことを知るだけで、いきものとの向き合い方が変わると思います。
あとがきにも、考えさせられました。
新型コロナウィルスの影響でペットを飼う人が増えているという報道は、私も見たことがあります。
そのなかには、よく考えずに、犬を飼う人がいるというのです。
沢田さんは、最後にこう問いかけます。
「あなたとあなたの家族は、二十年間、毎日犬をさんぽにつれていけますか?」
ペットに癒しを求める今こそ、読んでいただきたい一冊です。

『暗号サバイバル学園02 やみに光る魔神の目』
作・山本省三 絵・丸谷朋弘 (Gakken) 880円+税 2021年2月2日初版
学園ナゾトキアの生徒たちが、世界に散らばった「アンゴリアの鍵」を探す。
今回は、第二の鍵を探してアフリカのジャングルへ。
ところが、宿敵のシャドウに飛行機の操縦を乗っ取られ、墜落の危機に……。
次々と来る危機と謎解きに、息もつけない展開です。

『へんくつさんのお茶会 ーおいしい山のパン屋さんの物語ー』
楠 章子 作 井田千秋 絵 (Gakken)1300円+税 2020年11月10日初版
山のふもとにあるパン屋さん。パンを焼いているのは、気むずかしく、へりくつばかりいうおばあさん。みんなから、へんくつさんと呼ばれていてーー。
おいしそうなパンの数々、それを目当てに訪れる小人や森の動物たち。そして、中には泥棒まで!
へんくつさんは、だれのことも愛想良く迎えたりしません
でも、ちゃあんと、相手のことを思って愛情を返しているのです。
そのことがわかってくると、へんくつさんを好きになってしまうんですよね。
パン屋を訪れたものたちが自分の問題を解決していくうち、へんくつさんもずっと心に引っかかっていたことを解決しようとします。
どの章もやわらかくて、ほこほこして、まさに焼きたてのパンみたいな味わいの物語です。

『保健室経由 かねやま本館。3』
松素めぐり 作 おとないちあき 装画・挿画 (講談社)1400円+税 2020年10月27日初版
シリーズ最終巻。かねやま本館の湯に呼ばれたのは、友だちに合わせて自分の気持ちを抑えてしまうムギと、イケてる自分を演出しすぎてひずみが出ているナリタクのふたり。
本当はだれよりも理解しあえる相手だったのに………。
一見、正反対のふたりが内面に抱える課題は同じ。そのことに気づかせてくれるのが、お湯の効能というのがいいんです。
かねやま本館ではすべてを教えない。その先は、本人が実生活の中で考え、つかみとっていくしかないーー。
ファンタジーで心を休め、リアルで踏ん張る力を得るというこの設定が、読者の背中をどれだけ押してくれることか。
特に今回は、恋心がその子の背中を押す展開なので、より読者の気持ちをがっちりつかむことでしょう。
かねやま本館の秘密がわかるのも最終巻ならではの展開。
離ればなれになったふたりのその後もよくて、ラストの余韻にひたりました。
ああ、読めてよかった。
そうつぶやきたくなるような本です。

『ひかりの森のフクロウ』
広瀬寿子・作 すがわらけいこ・絵 (国土社) 1400円+税 2020年10月30日初版
ステップファミリーで兄弟になった哲と兄ちゃん。とても仲よくなり、哲にとってはかけがえのない家族となる。
けれども、両親が離婚したことで、兄ちゃんと離ればなれに。
さみしい思いで兄ちゃんとの思い出の森へ行ったところ、ちょっと変わったおじさんがいて……。
家族のことで心に傷を抱えている哲とおじさんとの不思議な交流。
この二人だから通じ合うものがあり、この交流があったからやっと手放すことができた思いがあるのだなあ、と感じる展開でした。
主人公は子どもなのだけど、子どもの頃から背負ってきた大人の哀しみが伝わってくるんです。
ままならない人生だけども、それぞれが受けとめ乗り越えていく様子が不思議な光景を通して描かれます。
小林賢太郎の舞台『うるうのもり』と通じる世界観があって、じんわりじわじわとしみるものがありました。

『かいくんと セラピー犬バディ』
井上こみち・文 (国土社) 1300円+税 2020年2月25日初版
保護犬だったバディと飼い主のかいくんが、高齢者の施設や病院を訪問して、セラピー活動を行う様子を追ったノンフィクション。
人に見放され、つらい思いをしただろうバディが、かいくんに大切にされることで人を信頼するようになり、セラピー犬として人の心を癒し、生きる意欲をもたらすようになります。
犬は人が好きで、人に喜んでもらえることをするのが好き。
もともと備わった資質を発揮できるようになるには、やはり人の愛情が欠かせないのです。
バディとのボランティア活動を通して、かいくんが犬のことや人の心のうちを感じ、学び、次に生かしていく姿に胸が熱くなりました。
犬も人も幸せになる活動をもっと広く知ってもらいたいというかいくんの思いが伝わってきます。

『ほくほく おいもまつり』
すとうあさえ ぶん なかたひろえ え (ほるぷ出版) 950円+税 2020年9月20日初版
「はじめての行事えほん」シリーズは、その行事がどういうものかがなんとなくわかり、やってみたくなるお話です。
シリーズ完結編の12冊目は、収穫祭。
ねずみの家族がおいもほり。
たくさんとって、わっしょい、わっしょい!
収穫の喜びと感謝をみんなで共有するお祭の様子が、伝わってきます。
季節の行事、みんなで楽しみたいですね。

『フン虫に夢中』
いどき えり・著 解説・中村圭一 (くもん出版)1400円+税 2020年9月16日初版
奈良にある「ならまち糞虫館」をつくった中村圭一さん。
本書はフン虫とはどういう虫なのか。そのフン虫に中村さんが出会い、博物館を開館するまでの両方が描かれます。
『ファーブル昆虫記』のフンコロガシのくだりは読んだことがありましたが、それと同じなかまが日本にいるとは、しかも、どこにでもいるとは初めて知りました。
こういう、知らなかったことに出合えるのが、読書の醍醐味ですね。
個人で虫の博物館を作るって、どういうこと? どうして作ろうと思ったの? どうしたら作れるの?
読んで浮かぶ疑問に、次々と答えてくれるような構成。
文の運びから、著者のいどきさんがフン虫のことを知り、中村さんを知っていく過程でワクワクと胸を踊らせている様子も伝わってきて、読んでいてニヤニヤしてしまいました。
中村さんは少年の心をずっと持ち続けていらっしゃるのですね。
好きなものにとことん向き合う中村さんの青春、同年代の子が読んだら、うらやましいと思うかも。
自然体系の中でのフン虫の役割、その存在を広報する中村さん。
虫も人も好きになってしまう一冊です。

『キニ子の日記 〈上〉』
作・間部香代 絵・クリハラタカシ (WAVE出版) 1200円+税 2020年9月10日初版
満塁小学校6年F組のキニ山キニ子の気になる日記と、須原C介先生の赤いコメントによる楽しい探求&雑学。
キニ子が気になることは、確かに気になることばかり。
けしごむで消せるものと消せないものがあるのはなぜか。
なるとの表と裏、から続いて、硬貨の表と裏はどちらなのか。
信号の電気代はどこが払っているのか。
気になることに至るまでのエピソードや、キニ子の視点がユニークで、おもしろくてたまりません。
須原C介先生がチコちゃん(NHK「チコちゃんに叱られる!」)ばりに、なんでもよく知っているのに、どこかとぼけたキャラクターなのがまた愛おしく。
その上、プロ田プロ子、ナル森ナル男など、愉快なクラスメイトたちとの日常、ひょっとしたら初恋ですか?な展開も気になって……。
なにもかもが気になる〜。
言葉選び、ストーリー展開とも秀逸な、新感覚の児童書です!

『暗号サバイバル学園 01 秘密のカギで世界をすくえ!』
作・山本省三 絵・丸谷朋弘 (学研)880円+税 2020年9月15日初版
考古学者のゴードン博士が発見した鍵。これが、世界を脅かす大事件の始まりという。
主人公は小学生のハルト。暗号解読の天才が集まる学園「ナゾトキア」に転入し、仲間とともに難題を解いていく……。
今人気の謎解きが、ストーリー展開。
謎解きだけでなく、古代文字やモールス信号なども出題されます。
後半は冒頭の鍵をめぐって、罠にはめられたり、危機に陥ったりと、なかなかにスリリング。
読者も難題に挑戦しながらストーリーを楽しめます。

『俳句ステップ!』
おおぎやなぎ ちか・作 イシヤマ アズサ・絵 (佼成出版社) 1300円+税 2020年8月30日初版
子どもの俳句大賞に選ばれた作品を先生が読み上げる。それはクラスで目立たない七実がつくったもの。なのに、優等生の早知恵がつくったことになっていて……。
この事態になぜなったのか。ふたりはどうするのか。
ハラハラしながら読んでいるうちに、私も俳句をつくってみたい、という気持ちになっているから不思議。
俳句ってセンスのある人しか作れないような気がしていましたが、そんなに難しく考えなくていいんだ、気持ちを素直に言葉にするものなんだと思えてきたんです。
子どものうちはボキャブラリーが少ないから、気持ちを言葉にするのはとても大変。
でも、こんな風に表せたら、すっきりするだろうな、と思いました。
俳句をつくる人は、いい歌詞をかける人になるよ、きっと。

『れいとレイ ルックアト ザ ブライトサイド』
うちやまともこ・作 岡山伸也・絵 (絵本塾出版)1300円+税 2020年8月初版
アメリカから家族で日本に引っ越してきたレイ。となりに暮らすのは、同じ歳のれい。れいは覚えた数少ない英語でレイとコミュニケーションをとるようになり、レイも日本の文化を学びとろうとするが……。
れいとレイ、二人が交互に主人公となって物語が進みます。
テンポ良く展開する中で、コミュニケーションのむずかしさとすばらしさが伝わってきます。
違う文化を受けいれるには、それなりの壁があるけれども、知っていくと、素敵なことが待っているんですね。
新しい言葉を知る、相手ともっと仲よくなるというわくわく感を、私も体験させてもらいました。
この子たちはまたいつか会うんだろうな。
そんな希望を抱かせてくれる、爽やかな読後感です。

『保健室経由 かねやま本館。 2』
松素めぐり 作 おとないちあき 装画・挿画 (講談社)1400円+税 2020年8月3日初版
シリーズ第2巻。
疲れた中学生が導かれる世にも不思議な温泉「かねやま本館」。
今回はここで出会い、突然会えなくなった友だちを思うチバの物語。
なぜ突然消えたのか?
残されたノートを手がかりに、チバの思いを探る日々。そうして探るうちに、チバの心境に変化が生まれて……。
卑屈な気持ちから相手を傷つけてしまうのは私自身も覚えがあって、イタタタタと、うめく思いになりました。
10代の頃って、なんで言葉と気持ちが裏腹になるんでしょうね。
私は壊れた関係を修復できなかっただけに、がんばるチバに胸が熱くなりました。チバのおかげで、読後、胸の痛みも少し和らいだような。ほんとに癒しの温泉ですね。
次の巻では、かねやま本館のなぞが解き明かされるのかな。とても楽しみです。

『区立あたまのてっぺん小学校』
間部香代・作 田中六大・絵 (金の星社) 1200円+税
2020年6月初版
2学期始まりの日。なんと、頭の上に小学校ができていた!という奇想天外なはじまり。
なんで? どうして? それで、どうなるの?
先が知りたくて、ページをめくる手がとまりません。
幼年童話ならではの、のびやかで、ゆかいな展開。
ぜひ、このおもしろさを体験してほしいです!

『うれしい ぼんおどり』
すとうあさえ ぶん 種村有希子 え (ほるぷ社) 950円+税 2020年6月20日初版
「はじめての行事えほん」シリーズの11冊目。
テーマは「お盆」。
小さな子がはじめてこの行事にふれたとき、なのためにするのかが、なんとなくわかるような構成になっています。
このシリーズはどれも家族の喜びや思いやりが詰まっていて、読むと、あたたかい気持ちになるんですよね。
シンプルで、まっすぐ心に届く。そんな絵本です。

『保健室経由、かねやま本館。』
松素めぐり/作 おとないちあき/装画・挿画 (講談社)1400円+税 2020年6月1日初版
新潟から東京に引っ越してきたサーマの一家。新潟では人気者だったサーマは、東京でもうまくやっていけるつもりだったが、のけ者に。具合が悪くなって保健室に向かったところ、【第二保健室】に入り、山姥を思わせる養護教諭に導かれて床下の世界へ行くことに……。
怪しげな湯治場で出会うのは、それぞれ心に傷を負った中学生。
傷つけられて許せなくなる気持ちや、自分の嫌なところに向き合うつらさ。
どの子の気持ちもわかるわかる。
でも、湯につかっていると、かたくなっていた気持ちに少しずつ変化が起きていくのです。
つらさがわかるだけに、ほどけていく様子や信頼を強めていく様子にじんときて、何度も目が熱くなりました。
現実と非現実との行き来、解消されるものと、深まる謎。次巻の展開への引っぱりもうまい!
文学とエンタメの両方を合わせ持つ傑作です。

『赤毛証明』
光丘真理/作 (くもん出版)1300円+税 2020年5月30日初版
生徒手帳の1ページ真ん中に、赤いゴム印で「赤毛証明」と押されたことから、自分は「ふつうじゃない」と感じた主人公。
そこから、「ふつうってなんだ?」という疑問に向き合っていくようになります。
赤毛証明印を押した先生、車いすバスケット選手の幼なじみや友人、その家族と、いろいろな人の思いが交差するなかで、思考を深めていき……。
世の中には、これが「当たり前」と思わされていることがいかに多いか。
本書を読むと、幻影の「ふつう」に自分を当てはめている息苦しさに気づき、本当にこれは従うのが当たり前なんだろうかと、考えるきっかけになると思います。
そのままでいいんだよと、子どもたちを応援する物語です。

『おかしっこ学校はじめ組 はじめての ドキドキ にゅうがくしき』
作・北川チハル 絵・公文祐子 (東洋館出版社) 1300円+税 2020年4月3日初版
おかしむらに住んでいる子ども「おかしっこ」。入学して友だちになりたいアイスちゃん。緊張すると暴れてしまうガムくん。あれ? なんだか、人間の小学校に似ているような……。
おかしの特長を生かしたキャラクターに、ぽんぽん進む展開。くすくす笑いながら読みました。
1年生 の4月は、みんなで同じことをするのが、まだうまくできない時期。この本を親子で読んで、うまくいかないことも笑い飛ばしてしまいましょう。
親も子もあせらなくて大丈夫。
それぞれのペースで成長していきますから!

『ひなまつりパーティー はるらんらん』
文・すとうあさえ 絵・山田花菜 レシピ川島雅子 (ほるぷ出版) 1300円+税 2020年1月月20日初版
「おいしい行事のえほん」シリーズ第1巻は、ひなまつりのお祝いごはん。
親子でつくれるレシピを、ストーリー仕立てで紹介してくれる絵本です。
すとうさんの文と、山田さんの絵は、相性ぴったり。
子どもはおいしそうな絵をくり返し眺めるでしょうし、「作ってみたーい」と言うでしょう。
季節の行事を大事にすると、くらしが豊かになると思います。
ぜひ親子で楽しんでもらいたいなあ。

『びっくりしゃっくり トイレそうじ大作戦』
野村一秋・作 羽尻利門・絵 (佼成出版社) 1300円+税 2019年12月15日初版
みんなが嫌がるトイレ掃除。由治だけがまじめにやりますが、不愉快な思いを抱いています。けれども、「トイレ掃除が好き」という校務員さんの仕事を見せてもらったことで、がぜん興味が高まって……。
この本を読むまで、まさかトイレ掃除がエンターテインメントになるなんて、思ってもみませんでした。
いや、でも確かに、トイレを掃除してきれいになると、ふふんっと内心ほくそ笑む気持ちになってたな。
日本のように学校生活で「掃除」がある国は、そんなに多くないようですね。日本人が公共の場にゴミを捨てることに抵抗を感じたり、みんなが使う場所はなるべくきれいに使おうと思うのは、学校で学んだことによるのでしょう。
大事なことを物語にしてくださった野村さんに拍手を送りたいです。

『カケ・マケちゃん ーとー かたづけエルフ』
リナ・ジュタウテ 作・絵 正岡慧子・文 瀬戸はるか・翻訳 (世界文化社) 2019年12月10日初版
カケ・マケちゃんは自由奔放な女の子。次々におもしろいことを思いつくものだから、部屋は散らかるいっぽう。そんなある晩、かたづけエルフがやってきて……。
カバーに「世界一楽しいしつけの絵本」という謳い文句がありますが、よくあるしつけ本とはちょっとちがいます。
カケ・マケちゃんはあくまでも自由奔放なまま、かたづけエルフの出す問題に挑戦していくのです。
そして、ラストはくすっと笑えるように描かれています。大人は、ああ、言われちゃったな(笑)となるように。
大人が目くじら立てて子どもに強制するのでなく、こんな風に楽しく片づけられたらいいなあ。
子どもの気持ちをすくい、大人ははっとするー
と書いて、はっとしました。
そうか、これは大人をしつける絵本なんだ!

『木があつまれば、なんになる?』
おおぎやなぎ ちか/作 マリーニ・モンティーニ/絵 (あかね書房) 1200円+税 2019年11月27日初版
学校で漢字を教わったかん太。
「木」が2本で「林」。3本で「森」。4本だとジャングル!
帰りに公園に寄り道して、地面に「林」「森」と書いたところ……。
子どもの想像力がまんま物語になっていく感覚。そうそう、子どもの頃は想像が私の中では本物になっていたと、わくわくしました。
言葉から発想していく楽しさ。
言葉の扉を開くと、どんどん世界が広がっていくんですね。
理屈でなく感覚で、言葉の豊かさを知ることができる物語です。

『キセキのスパゲッティー』
作・山本省三 絵・十々夜 (フレーベル館) 1300円+税 2019年11月初版
町内の小学4年生が、夏フェスで出店をする。そのメニューを決める際、渉は「うっかりスパゲティー」を出したいと言う。すると、真奈は「かみなりスパゲッティー」、ジーナとユジュンは「カンタリアン」を出したいと言い……。
登場人物それぞれが抱える事情や悩みとともに、オリジナルのスパゲッティーができたエピソードが明かされていきます。
料理がつなぐ気持ち。
どの子もそれぞれの立場で踏ん張っていて、応援したくなりました。
3つのスパゲッティーのレシピも載っているので、すぐに作れそう。
私は「カンタリアン」を作ってようかな。

『もしも恐竜とくらしたら』
山本省三 (WAVE出版) 1300円+税 2019年11月15日初版
『もしも宇宙でくらしたら』『もしも月でくらしたら』に続く第3弾。
科学の力で恐竜をよみがえらせたとしたら、飼育する建物はどんなものがいいのか? エサは何を与える?など、科学的な見地に基づいたストーリーになっています。
古代の生きものを飼育したとしたら、こうなるんだ!と、リアルに感じられるおもしろさ。
この絵本で、科学好きになる子がいるはず。
子どもの知的好奇心を育む絵本です。

『アサギマダラの手紙』
横田明子・作 井川ゆり子・絵 (国土社) 1300円+税 2019年9月25日初版
遠くまで飛んでいくというアサギマダラという蝶の生態を生かした物語。
友だちとケンカ別れしてしまった女の子と、その気持ちに共感した蝶の交流と旅を描きます。
小さな体で遠くまで旅するアサギマダラと、そのアサギマダラに託された思いが届くよう、応援する気持ちになりました。
生きものとの共生と、友情の育み方が伝わってくる良書です。

『だれもしらない 図書館のひみつ』
北川チハル・作 石井聖岳・絵 (汐文社) 1400円+税 2019年9月初版
夜、図書館の本たちが動きはじめます。よく貸し出される人気の本は得意顔で、貸し出されたことのない本は自信を持てません。そんなある日、人気の絵本たちが次々に消えていく、という事件が起きて……。
だれにも読まれず、本棚にひっそりとある本。
作家としては自著の本を思って、深く感情移入してしまいました。
そして、本の思いや、本を読んだ人たちの反応もわかって、いろいろ考えさせられました。
主人公が『ひかげの きりかぶ』という文字通りの陰キャである点が、またいい!
『ひかげ』の活躍に、誰もが胸を熱くすることと思います。

『青いあいつがやってきた!?』
松井ラフ・作 大野八生・絵 (文研出版) 1300円+税 2019年8月月30日初版
引っ越してきて2週間。父さんは転勤で単身赴任し、母さんは家のローンのため、土曜日も仕事をする日々。ひとりぼっちのぼくの前に、突然、青いへんな生きものが現れて……。
青いあいつの正体はなんなのか?
なにやら悩みを抱えているぼくと、謎に満ちた青いやつ。
二つの秘密が知りたくて、どんどんページをめくりました。
ぼくと一緒に青いやつと過ごすうちに、こちらもなんだか別れがたい気持ちになって、ある場面では「やだっ、こんな形で別れたくない!」と涙が出そうになりました。
その後の展開には度肝を抜かれ、だけども、そうなんだと深く納得して、じんときて。
私たちが知らないだけで、こんな真実があるのかもしれないと、信じたくなりました。
気持ちがトゲトゲしてきた時は、この本を読んでもらいたいなあ。

『となりはリュウくん』
作・松井ラフ 絵・佐藤真紀子 (PHP研究所)1200円+税 2019年8月1日初版
元気でちょっと迷惑な転校生のリュウくんと、引っ越してしまった友だちを比べて、嫌な気持ちになるレミ。
あるある、こんな気持ち。
他の子にもらしたら軽べつされるだろうから言えないけど、こんな風に思っちゃうことって、あるよね。
そして、一方的に嫌な感情を抱く時は、たいてい相手のことをよく知らないせいもあるよね、ということも、やんわりとわかる。
松井ラフさんは、低学年〜中学年ぐらいまでの子どもたちの気持ちを救い上げるのが、本当にうまいなあと、ほれぼれします。
中学年ぐらいの子が読んで納得できる、このグレードのお手本のような物語です。

『よろしくパンダ広告社』
間部香代/作 三木謙次/絵 (学研プラス) 1400円+税 2019年6月11日初版
パンダによる動物たちのための広告社。
個性豊かなクリエイターを描いた、歴としたお仕事小説です。
広告制作の仕事がどういうものかがわかり、仕事に向き合うパンダの努力と友情、やりがいが伝わってきます。
なんといっても、言葉がすてき。
ダジャレやらキャッチコピーやら一行日記やら、言葉って、こんなにもおもしろくも、オシャレにも、はっとさせるものにもなるのだと、ほれぼれします。
おもしろくて、かわいくて、じんわりして、読み終わった後、元気をもらえる一冊です。